不動産投資の初心者が節税目的でワンルーム投資をすることについて

2020年8月31日

特にワンルームマンションを対象とした投資商品でよく耳にするセリフ(宣伝文句)が「不動産投資は節税になる」というもの。

というのも、「減価償却費」を経費に計上したり「借入金利息」など計上できる費用が多く、結果として不動産投資をしなかった場合に比べて所得税の納税額を減少させることができる項目があるためだから、という理由です。


確かに間違いじゃありませんし、不動産投資の知識が乏しい初心者の方だと納得されるかもしれません。

でも、「大きな節税」が見込めるのは、購入時の諸費用が全額経費計上できる「購入初年度(1年目)」と、購入して次年度には不動産取得税がかかることからその「翌年(2年目)」くらいです。

それ以降は大して節税にならず、特にマンション経営はそれほど節税対策にはならないというのが結論です。

不動産投資を行うことで「節税」するのは可能です。

しかし、節税目的で不動産投資をやるには投資額に対してあまりにも得られるものが少ないのが現実です。

一般に「不動産投資=節税対策」と言われる仕組みは大きく分けて3つのポイントです。
それが

  • 所得税
  • 住民税
  • 相続税・贈与税

です。

まず、「所得税」が節税になる仕組みについてです。

所得税のうち「総合課税」の対象となる所得は「所得税全体」として利益を扱います。
「給与所得」や「不動産所得」のほかにも「利子所得」「事業所得」などがあります。

不動産投資のはじめの頃は特に初期費用が多くかかり、建物の価格に対しての減価償却費が多額になるため、不動産の家賃収入よりも経費が上回ることがあります。
この場合、所得税全体を「ひとかたまり」として利益を扱える「総合課税」に分類された給与所得(勤務先の会社から貰える給料など)から不動産投資のマイナス分を相殺するができます。

これを「損益通算」と言います。

例えば、

  • サラリーマンの年収600万
  • 不動産投資による収入50万
  • 不動産投資にかかった経費150万

の場合、

サラリーマンの給与所得600万と不動産投資の損失100万、つまり不動産投資の収入額50万円から必要経費150万円をマイナスした金額を通算した金額が「所得金額」となり、サラリーマンだけをしているときから100万円低い年収になったことになります。
不動産投資の損失分をサラリーマンの給与所得からマイナスできるので結果として収める税金の金額は減ります。
この損益通算の仕組みがあるために「不動産投資は節税になる」と言われるのです。

不動産投資をはじめると家賃収入が入って、黒字になれば利益が発生します(これを「不動産所得」といいます)。
この不動産所得という利益に対して「所得税」という税金がかかります。

ちなみに、不動産所得が赤字で不動産所得以外の収入も全くない場合、所得税はかかりません。
また、10室以上等の相当規模の場合のみ「個人事業税」が課税されます。

所得税は「総合課税」と「分離課税等」に大きく分かれ、不動産所得は「総合課税」に分類されます。
所得全体を足していき、その所得税全体に対して課税金額が決定します。

税率は所得に応じて5%から45%までの7段階に区分されてかかります。

次は、住民税が節税になる仕組みです。

所得税は国に支払いますが、所得税とは別に、自分が居住する地方自治体に支払う「住民税」という税金があります。
住民税は納税者自身で計算せず、確定申告をする際に税務署から各市町村長に転送され、納税者に通知される仕組みになります。

住民税は「毎年6月から翌年5月」を一年度として考えます。
また、住民税の金額は所得に対して一定の割合課税される「所得割」と、例え所得がゼロでも必ず一定額を支払わなければならない「均等割」があります。
この所得割と均等割を合わせた金額が毎年納める住民税となります。

なお、所得割の税率は所得税率と違って一律10%となっています。

住民税も所得税計算と同じ「損益通算制度」があります。

住民税は所得税の確定申告書を使って、基本的には所得税の計算ルールと連動した形で市区町村側で計算されます。
つまり、所得税がマイナスになるのであれば、住民税も結果的にマイナスになるわけです。

最後に相続税・贈与税が節税になる仕組みです。

相続税はいま現在、不動産投資を行なっている方が亡くなった場合、その不動産などを相続される方が支払う税金となります。
一方、贈与税は生前に不動産を贈与した場合、その不動産を受贈された方が支払う税金となります。
相続税・贈与税共に税率は、財産評価基本通達による不動産評価額に対し、評価額の多寡に応じた10~55%の比例税率となっています。


さて、現金を相続する場合、相続する金額がそのまま評価額となります。
例えば、相続人が1人で1,500万の現金を相続する場合、財産評価額は1,500万となります。

一方、不動産を相続・贈与する場合、土地は路線価、建物は固定資産税評価額からそれぞれ不動産評価額が評価されます。
一般的に土地は実勢価格の8割程度、建物は7割程度の評価になるようです(物件の個別性から上下します)。

※相続税路線価についてはコチラを参照してみてください。
https://im-movable.com/2020/08/03/post-115/

土地800万円・建物700万円の販売価格1,500万円の不動産が評価額では7割程度の1,100万くらいとなります。
さらに建物が賃貸用だと、借地権や借家権の影響でさらに評価額が低くなります。

例えば、借地権割合が70%の地域だと、
{800万の土地×80%×(1-借地権割合70%×借家権割合30%)}+{700万の建物×70%×(1-借家権割合30%)}≒848万円

このために、現預金ではなく同額の不動産で相続・贈与することで節税効果があると言われています。

大幅な経費として計上できる「減価償却費」について説明します。

課税のうえでモノには国で決められた「法廷耐用年数」というものがあります。
例えば、

・鉄筋コンクリート造なら47年
・木造なら22年
・車なら6年

といった具合です。

分かりやすく車を例にします。
例えば、会社を経営するにあたって300万の社用車を買ったとします。

もちろん、その車の購入費用は経費で計上するわけですが、その時に経費計上するのが「減価償却費」ですが、一気に300万は経費計上出来ません。

300万÷6年=50万

つまり年間50万円ずつを6年間にわたって経費計上できます。
これと同じ原理でマンションの上物価格(土地は不可)も減価償却費として経費計上することができるわけです。

減価償却については分かったけど、それ以外の必要経費は実際に出費するのか?
そしたら、結局自分の財布から出ていくお金になって損になるんじゃないのか?

いいえ、そんなことはありません。

減価償却費は当初、必要経費の大部分を占めるので、毎月プラス収支

例えば、
「家賃収入8万-ローン支払い7万=+1万」
だったとしても、

トータルの必要経費に減価償却が加わって赤字申告する場合もあるので、そうなれば当然「節税」になります。

少し話が長くなっちゃいました。
最初に結論づけた「大して節税にならないのはナゼ?」について説明します。

購入「初年度」だと購入時の諸費用なども全額経費計上できるので、大きくマイナスを出すことができます。
また、購入して「次年度」には不動産取得税がかかるので、次年度も若干多く経費が出せます。

ただし、それ以降は通常ベースの経費計上が続くわけで、大きく赤字を出すことは正直難しいのです。
もちろん突発的に設備の故障や、取り換えなどで費用がかかれば全額経費計上できますが・・・

つまり、「 赤字を大きく出せない = 大した節税にはならない 」ということです。

あたかも初年度の節税が長く続くかのように錯覚させる営業マンもいますから、こういった業者のセールストークには十分にご注意下さい。